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導き

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改まった思いでその寺の山門に立っていた。観光では何度か訪れたことはあったが、きょうは特別だ。入山料を払うところで声をかけた。「お墓参りに来たのですが」。そう言うと、そのまま門を通してくれた。山の斜面にあるその寺は、きれいな庭園を抜けると、急傾斜の階段が続く。登りきると、湘南の海が視界に広がった。2500株のアジサイが群生する横を更に登った。大きな観音でも有名な長谷寺だ。

曽祖父の弟のお墓があることを知ったのは、鎌倉に引っ越してきて、おばと電話で話してからだ。祖父にはその存在を何度も聞かされていた。明治から大正、昭和にかけて生きた評論家、小説家であり、翻訳家でもあった生田長江。文壇で夏目漱石や森鴎外を批評し、ドイツの哲学者ニーチェの翻訳に力を注いだ。多くの文人と同様、鎌倉に住まいを持ち、たくさんの犬を飼っていた。海岸に散歩に連れて行くのは書生だった祖父の役目だったという。

長江は晩年、病身を押し、失明にもめげず口述で最後まで書き続けた人だ。詩人でもあった長江はこんな詩も残している。
「冷ややかに 水をたたえて かくあれば 人は知らじな 火を噴きし 山の痕とも」。「たちまちに 風吹き出でて 燭の灯の 消えも行きなば ふり仰ぎ はじめて知るや 中空に月のありしを」。
雄大な自然、月明かりの趣は、私も鎌倉に住んで気づけるようになったような気がする。

墓石の周りはドクダミ草が伸び放題で荒れていた。私は妻と掃除をし、砂利を担ぎ上げて周囲にひいた。私が鎌倉に来て、お墓が見違えるほどきれいになった。やはり、私は長江に呼び寄せられたのだ。私を選んでくれて光栄に思います。あなたの自然を感じる心が少しでも遺伝していますように。観音山の中腹にあるそのお寺の墓地からは、私が住む材木座の海岸が一望できる。。。

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by umikama326 | 2009-03-05 00:00 | 回想録